地球の”さけび”が聞こえますか-環境破壊・その解決に向けて (シリーズ世界と日本21)

はじめに

 1991年1月の湾岸戦争の際には、「石油まみれの海鳥(うみどり)」「炎上する油田」などの映像が毎日のようにテレビで放映され、ペルシャ湾から遠く離れた日本にいても、地球の”さけび”が聞こえてくるようでした。
  最近、地球の温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨、熱帯林の破壊など、地球規模の環境問題が深刻になってきています。その結果、これらの環境破壊が地球――宇宙船地球号――に住む私たちに大きな関心事になっていますが、湾岸戦争は、まさに「戦争こそ最大の環境破壊」であることを教えてくれました。そしてもしこれが「核戦争になっていたら」と思うと、慄然(りつぜん)とならざるをえませんでした。
 このようななかで、1992年6月には、ブラジルのリオデジャネイロで「環境と開発に関する国連会議」、いわゆる「地球サミット」が開かれました。この会議が開かれる前は、マスコミも連日のように取り上げ、地球規模の環境問題にたいする国民的な関心も高まっていたのですが、地球サミットが終わると潮が引いたような観がします。とくに、アメリカのブッシュ大統領が「もし気候変動枠組み条約に、二酸化炭素の排出量規制や規制期限を明記するならば、サミットへの出席を拒否する」などと称して横車を押し、結局、気候変動枠組み条約を骨抜きにしました。また、宮沢首相は自衛隊の海外派兵を許す PKO 等協力法を成立させるために、地球サミットそのものへの出席を取り止めてしまいました。したがってこのような事態の影響もあって、NGO(非政府組織)の活動は別として、政府間会議としての地球サミットは期待されたほどの成果をあげたとはいえませんでした。
  しかし、このようなサミットやマスコミの動きをよそに、1991年~92年の冬は、1987年以来の6年つづきの暖冬が出現するとか、1992年8月には史上最大のハリケーン・アンドリューがフロリダ半島に上陸するというように、最近は異常気象が頻発しています。これらがすべて地球温暖化の現われだという確証はありませんが、地球温暖化が直接肌でわかるような形で進行しているようにみえます。
  とくに深刻なのはオゾン層の破壊で、ピナツボ火山の噴火の影響も重なっているとは思われますが、1992年10月2日と15日には、南極の昭和基地上空の15~18キロメートルの層で、オゾンが完全に消滅していたというショッキングな事実が観測されています。これらの事実は、地球規模の環境破壊がきわめて深刻な形で進行しており、地球規模の環境破壊を防ぐための、国際的な行動を一刻も早く取ることが要求されていることを示しています。
 本書は『学習の友』1991年7月号から92年2月号までに連載した「地球の”さけび”が聞こえますか」をもとに、加筆、補正したものです。まず地球環境を守ることの重要性を理解していただくために、地球の誕生にまでさかのぼって「なぜ二つとない地球か」から説き起こし、地球温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨、熱帯林の破壊へと話をすすめ、ついで、直接現地調査に参加したチェルノブイリ原発事故をはじめとした放射能汚染をのべ、戦争、とくに核戦争が最大の環境破壊であることを、湾岸戦争の経験をふまえて記し、地球規模の深刻な環境破壊の現状を明らかにしています。そして最後に「地球は本当に救えるだろうか」という章を設けて、”二つとない”地球環境を守る道筋を詳述しています。
 この章は『学習の友』の連載ではページ数の関係で、基本的な観点の記述だけで終えた部分ですが、本書では、「われわれは被害者であると同時に加害者である」「人口が増え過ぎるから環境破壊がおこる」「科学が発達しすぎたからか」「環境保全を優先すると経済が停滞する」など、一般にいわれていることや疑問に思われている問題に答える形で、環境問題をとらえる基本的観点と、その解決の方法を明らかにしたもので、本書のために全面的に書き下ろした部分です。
 環境問題を取り上げた類書は枚挙にいとまがありません。しかし、戦争、とくに核戦争が最大の環境破壊をもたらすことを記述したものは、著者の前著『地球環境が危ない』
(新日本出版社、1990年4月20日発行)と関根一昭著『地球の歴史と環境破壊』(平和文化、1990年11月1日発行)以外にはほとんど見当たりません。本書では、湾岸戦争の事実をもとに、さらにこの点が詳述されています。
 また、環境関係の類書は、一般に環境破壊の現状は詳細に記述していますが、その解決策といえば、せいぜいライフスタイルの変更くらいしかのべていません。もちろん本書でも、ライフスタイルの変更の重要性を軽視しているわけではありませんが、環境破壊の主要な元凶は、「後は野となれ山となれ」式の大企業や多国籍企業の利潤追求を第一とした生産様式であることを具体的な事実で明らかにしたうえで、これを防ぐ道は、世論を背景とした、「民主的な規制」であり、「国際規制条約」と「国際アセスメント条約」の締結であることが強調されています。
 読者のみなさんの忌憚(きたん)のないご批判を期待します。

目次

はじめに
Ⅰ なぜ「二つとない地球」なのか
1 もし地球に空気がなかったら
2 地球大気の温室効果
3 地球はどうして生まれたか
4 生物の誕生には海が必要であった
5 地球は何億、何十億分の一もの小さな確率で生まれた
Ⅱ 急速に進む温暖化
1 年々増加する温室効果気体
2 温暖化はすでにはじまっている
3 IPCC の予想した気候変動
4 地球温暖化はなにをもたらすか
5 はたして温暖化は止められるか
Ⅲ 地球を守る宇宙服――オゾン層の破壊
1 南極の空にオゾンの穴が
2 塩素1個で10万個ものオゾンが
3 オゾンが減ったらどうなる
4 急がれるフロンの全廃
Ⅳ 深刻な酸性雨の被害と熱帯林の破壊
1 わが国にも欧米なみの酸性雨が
2 歴史的建造物にまで被害が
3 昭和天皇葬儀の日はNO2が激減
4 丸太材輸入の半分は日本――熱帯林の破壊
Ⅴ 世界をめぐる放射能
1 「5分間以上はいないように
2 日本にもチェルノブイリの放射能が
3 原水爆実験と「放射能の雨」
4 もしも東京湾で核事故がおこったら
5 核兵器生産にともなう放射能汚染
Ⅵ 戦争、とくに核戦争後の地球環境はどうなるか
1 湾岸戦争はなにをもたらしたか
2 広島型原爆1個でも「黒い雨」が
3 全面核戦争と「核の冬」
4 核戦争は最大の環境破壊
Ⅶ 地球はほんとうに救えるだろうか
1 環境破壊と自然災害とのちがいは?
2 「われわれは被害者であると同時に加害者である」といわれますが?
3 旧社会主義国でも環境破壊がひどいそうですね
4 人口が増えすぎたからでは?
5 兵器生産や軍事演習による環境破壊もひどいそうですね
6 科学が発達しすぎたからでは?
7 環境を守る基本は何ですか?
8 「環境保全を優先すると経済が停滞する」という意見がありますが?
9 「”科学的に不確か”なのに騒ぎすぎる」ともいわれますが
10 地球サミットは成功したのでしょうか?
11 具体的に地球環境を守るためにはどうすればよいでしょう?
12 リサイクルくらいで地球規模の環境破壊が防げるでしょうか?
13 「地球は子どもたちからの借り物」
あとがき
コラム●クリーンエネルギーって何だろう? (吉田たか子)
熱帯林とその破壊 (本谷 勲)
0DA と環境破壊 (鷲見一夫)
放射能とひとのからだ (肥田舜太郎)

奥付

地球の”さけび”が聞こえますか―環境破壊・その解決に向けて
定価はカバーに表示
1993年2月5日 初版
著 者 増田 善信
発行所 学習の友社
ISBN4-7617-1202-3 COO36